鳥海山ーモノクロームの情景ー

・河原宿

 しばらく外輪山に登っていないので、明日は晴れていたら行こうと思っていた。夕方になって携帯が鳴り、明後日の午後に仕事が入ってしまった。明後日の午前中に下山できれば仕事に間に合うのだが、気持ちを切り替えるのが面倒だ。それに、山では何があるか分からない。明日の下山を決めた。

 翌朝、きれいな朝焼けで夜が明けた。登山口から山頂を日帰りする登山者も多いのだから、外輪山に登っても今日中の下山は可能だろう。しかし、それは若い登山者のことかもしれない。外輪山を見上げながら悩んだ結果、河原宿散策に決めた。

             風紋が広がる河原宿から見上げる外輪山

 

                  不思議な形の風紋

 

                悔しい思いで見上げた外輪山

 滝ノ小屋に戻り荷物をまとめた。青い空を見上げ、何度も外輪山を振り返りながら下山の途についた。

鳥海山ーモノクロームの情景ー

湯ノ台から河原宿(2016年2月中旬)

 冬になると寒気が緩む隙に滝ノ小屋に通っている。テーマにしている「風紋の雪原と岩氷に覆われた頂稜」を撮影できるチャンスがなかなか巡って来ないから何度も登ることになる。暖冬続きの日本列島だが、無理が効かなくなった自分の年齢で、あと何年登ることが出来るかを考えることが多くなった。

 晴天が見込まれる日を待ち、2泊3日の計画を立てた。と言っても1日目に滝ノ小屋に入り上部に向かうチャンスを待つだけだ。滝ノ小屋まで登ると、白糸ノ滝の下に広がる雪原にきれいな風紋が出来ていた。晴れてきた上部を見ると、ソロバン尾根の露岩やブッシュが露出している。相変わらずの雪不足だ。

          雪庇を付ける西物見の尾根 彼方に見える海岸線

 

                小屋に向かって最後の登り 

 

     八丁坂と風紋の雪原 積雪が少ないために白糸ノ滝の窪みが出来ている

 

               雲の向うに白い外輪山が見えた

 

             全容を現した外輪山と雪原の光と影

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・月山森

 予報通り晴天の朝を迎え、滝ノ小屋を未明に出発した。河原宿に上がってからも、外輪山に向かうか、月山森にするか迷っていた。結局、西寄りに90度方向を変えて雪原を横切って進む。これまで月山森に向かったのは、滝ノ小屋で時間を持て余した時や外輪山に立てるようなような天気ではない時ばかりだった。きれいに晴れ渡った朝の時間に月山森から西鳥海を展望したことがない。月山森に対して失礼な態度であったな、という反省を込めて月山森を目指すことにした。

         ボサ森と月山森の鞍部に近づくと扇子森が見えてきた

 

        エビノシッポに覆われた月山森から白い笙ヶ岳を望む

 

          鍋森 左後ろに長坂尾根の岩峰 右は鳥海湖の窪み

 

             天気の崩れが近いことを伝えるつるし雲

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湯ノ台から月山森へ(2015年3月下旬)

 再び滝ノ小屋に登った。何度登っても雪の表情は同じことが無いので飽きることはない。極端な暖冬のまま三月下旬になり、雪解けが始まっていた。滝ノ小屋に着いた日の午後から天気が崩れて、次の日の午前中まで湿雪交じりの強風が続いた。昼過ぎに、地元の高校山岳部の一団体が登ってきて小屋がにわかに賑やかになる。高校山岳部の雪山での活動が、森林限界を越えない範囲に制限されていることを顧問の先生に教えてもらう。夕日を受けて輝く外輪山を見上げて、小屋の前に立ち尽くす生徒の姿が印象に残った。

 

・河原宿まで

                  晴れてきた滝ノ小屋

 

             雲間の外輪山を見ながら雪原を登る 

 

               河原宿の台地を雲が流れて行く

 

              春の気配を感じさせる風紋と外輪山

 

                   夕陽を受ける外輪山

 仰ぎ見るソロバン尾根の雪の少なさに春の訪れを感じた。明日の予報は晴れ。予定を変更して、朝陽を受ける西鳥海を見に月山森に行ってみるか。

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・七高山(2015年2月下旬)

 伏拝岳から、新山を回り込むように七高山に続く外輪の尾根を辿る。行者岳から鞍部に下り、目の前の急斜面を見上げて、鉄バシゴのある正面を登るか右の吹き溜まりを巻くか迷う所だ。雪が安定しているようなので、右にトラバース。急な雪の斜面を登り切ると七高山は目の前にあった。白い雪のドームの新山を左に見て、少しの登りで七高山に着いた。七高山で、「厳冬の七高山は30年ぶり」と言う登山者に出会った。私も同じくらい久しぶりの七高山である。

            暖冬を象徴するように岩肌を露出した虫穴

 

               七高山北峰と眼下の稲倉岳

 

                 スノーブリッジと外輪山

 

              外輪の尾根を下山して行く登山者

 

                  午後の陽に輝く外輪山

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・外輪山(2015年2月下旬)

 夜通し吹いていた風は収まり、北の空に仄白く浮か外輪山の上空に無数の星が煌めいていた。アイゼンを履き、雪に埋まった荒木沢の斜面を登り河原宿に急ぐ。台地に上がった時、朝日が昇ってきた。急斜面に息を切らし、ひたすら登りそろばん尾根に上がる。傾斜を増す氷雪の斜面を越えると伏拝岳に着いた。外輪の縁から目の前に、千蛇谷を挟んで新山が聳えていた。いつ来ても感動の対面だ。

            伏拝岳から見る新山 その右奥に七高山

 

                  外輪内壁と七高山

 

                中島台から登ってきた登山者たち

 

                  岩氷を纏う七高山


 

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・河原宿(2015年2月下旬)

 スキーを履いて、鳥海牧場から登った。積雪は安定して、前回のようなラッセルの苦労もなく昼過ぎに滝ノ小屋に着いた。外輪山が見え隠れしている。アイゼンに履き替えて、強風の中を河原宿に登った。北風が強く吹き雪を運んでくる。寒さに耐えながら、風紋が刻まれた雪原を撮影した。

               風紋の雪原を地吹雪が流れる

 

                  風が刻む雪の造形

 

                雪が流れる河原宿の雪原

 

               西日に浮かび上がる雪煙と風紋

 

                 河原宿の雪原と外輪山

鳥海山ーモノクロームの情景ー

・滝ノ小屋(2015年1月上旬)

 湯ノ台から横堂経由で滝ノ小屋を目指す。新雪が降り積もった尾根道は困難を極めた。所により腰まで没するラッセルに時間がかかり大黒台で日没を迎えた。。翌日、濃霧の中を歩き始めて西物見付近まで登った時、急に霧が晴れて外輪山が見えてきた。

 河原宿に続く雪の斜面に、流れる雲が影を落としていく。スキーを履いて登る一人の登山者がいることに気が付いた。

                                                  霧が流れて白い外輪山が見えた。

 

             霧氷が付着した西物見の灌木帯

 

              尾根の東側で雪庇が崩壊していた

 

                雪の大斜面を登る単独登山者

鳥海山ーモノクロームの情景ー

丸森(2014年3月下旬)

 鳥海山を取り囲むように個性的なピークが並んでいる。それらの頂は、鳥海山を一望する展望台だ。月山森、笙ヶ岳、稲倉岳、丸森、飯ヶ森などがある。その一つ、丸森にテント泊をして3日間鳥海山を眺めた。

               丸森のピークから見る鳥海山

 

            雪原がうねる中島台 その先に七五三掛

 

                  中島台のブナ林

 

               霧動く白雪川流域のブナ林

鳥海山ーモノクロームの情景ー

・伏拝岳(2013年3月下旬)

 久しぶりに登った伏拝岳。懐かしさの中で雪山の美しさと怖さを同時に味わった。山の写真は、山の表情が劇的に変化する一瞬がチャンスと言われている。冬山ではそれが危険と隣り合わせであることを、この日の鳥海山が思い出させてくれた。

       伏拝岳から西鳥海を望む 日本海に雲海が広がっていて穏やかだ

 

          稲倉岳の北側から雲が回り込んで中島台を覆っている

 

 伏拝岳に着き、外輪の縁から雲一つない新山を見ることが出来た。それも束の間、南西の風が強まり雲が押し寄せてきた。

            氷結した雪面がまだら模様をつくる新山

 

             押し寄せた雲が影を落とし始めた

 

              強風と共に雲が押し寄せてきた

 

 伏拝岳に着いて間もなく強風と濃霧の嵐に包まれた。しばらく様子をうかがったが、回復の兆しが見えず下山を決めた。

鳥海山ーモノクロームの情景ー

写真表現の試行 

 写真を始めた頃、白黒フィルムを使い自家処理で現像して暗室で引き伸ばし作業に没頭した。色彩に溢れた世界を色の無いモノトーンで表現しようともがきながら写真技術を学んだ日々が懐かしい。今はデジタルデータを駆使することによって、あらゆる写真表現が可能であると言われている。

 これまで雪山の色再現の難しさに悩まされてきた。表現したい雪の白は、青赤黄などの望まない色にいとも簡単に転びやすい。晴天の日の雪山が空の青を反映して青い山に再現されるのが良い例である。これを補正しようとすると、今度は赤くなったり黄色を帯びたりして非常に厄介だ。

 そこで、これまで撮影した写真のカラーデータをモノクロに変換して雪山を表現するとどうなるのか試してみた。現実を忠実に再現するカラー写真をモノクロ変換すると、いっきに抽象化されて表現上の節度を失って独善の世界に陥る危険を感じる。これも写真の面白さととらえて、しばらく写真表現の迷路に飛び込んでみようと思う。

 

・鳳来山(2012年1月中旬)

 この日は1月にしては珍しいほどの晴天だった。約20年ぶりにワカンを履き、過去の記憶を蘇らせながら湯ノ台から歩き始める。南校ヒュッテから雪庇の尾根を辿り鳳来山に着いた。真綿雲が流れる穏やかな外輪山を眺めていると、一人の登山者が登ってきた。「横堂までの試登です」と言うその人は、月光坂を途中まで登って帰って行った。

             薄っすら積もった雪にノウサギの足跡

 

             鳳来山から晴れ渡った外輪山を見る

 

                雪庇が張り出した横堂の尾根

 

                鳳来山を登り返して帰って行く

 

 この日をきっかけに、約20年のブランクを経て雪山登山を再開した。


 

追憶の山紀行

田代岳

 田代岳は、白神山地の東端の山である。鬱蒼と茂るブナ原生林の道を登り、九合目で森林限界に出ると目の前に広大な湿原が現れる。湿原の西に小高い丘の山頂があり、五穀豊穣の神「白髭直日神」を祀る田代神社がある。山頂へ向かう途中で振り返ると、大小約120の池塘が点在する湿原を見下ろすことが出来る。

 田代神社の例祭が半夏生の時期の7月2日に行われる。半夏生とは農事暦の一つで、ハンゲショウの葉が半分白くなる頃を言う。例祭では、池塘のミツガシワの生育状態を見て、その年の農作の豊凶が占われる。

 登ったのは祭りの前日だった。神社前の草原ででテント泊した翌日、祭りに参加する人々が次々に登って来た。聞くと、この後も大勢が登って来ると言う。急いで荷物をまとめ、混雑を避けるために早々に下山した。

                 池塘の先にに岩木山が見えた

 

                    湿原を見下ろす

 

               ミツガシワの群生する池塘の夜明け

 

           朝日に輝く池塘 霞の中に見えるのは八甲田山

 

                  湿原に群生するワタスゲ

                             (1988年7月上旬)

                      *概念図は地理院地図を使用

追憶の山紀行

湿原を巡る山旅

 1980年代のある時期、東北地方の山中に広がる湿原を訪ね歩いた。ほぼ豪雪地帯にある山々の湿原は大半が雪田湿原である。いわゆる高層湿原と違って、湿原を形作る泥炭層が薄く、豊富な雪解け水で涵養される。ただ、泥炭層の厚さによる高層湿原との区別は難しいらしい。東北の山々に広がる湿原は、溶岩台地の上に形成されたものが多く、典型として月山弥陀ヶ原や鳥海山の千畳ヶ原がある。

 湿原に点在する池塘の造形に魅せられて、訪ね歩いた湿原の中で印象深かったのは、南八甲田連峰、北秋田の田代岳、奥羽山脈栗駒山と虎毛山である。

 

南八甲田連峰

 良く知られた八甲田連峰(北八甲田)から国道394号を境にして南側に連なるのが南八甲田連峰である。櫛ヶ峰、駒ヶ岳、猿倉岳、乗鞍岳などが聳えている。峰々の間に広大な湿原が広がり、大小の池塘を散りばめたお花畑が展開する。湿原を取り巻くアオモリトドマツの原生林も魅力だ。

 猿倉温泉を登山口として、旧道コースと呼ばれる車道跡に作られた道を歩き、矢櫃橋から乗鞍分岐を経て駒ヶ峰分岐でテント泊。翌日、御鼻部山分岐を経由して強風の中を櫛ヶ峰に登る。そそくさとテント場に戻り、駒ヶ岳から猿倉岳を経由して猿倉温泉に下山した。雨が降り始めた猿倉岳から、根曲がり竹が密生した不明瞭な道を下った苦労は忘れられない。それでも他の大部分の道ははっきりしていた。現在の登山道は、藪に覆われて自然に帰っている個所が多くあると聞く。

                      矢櫃萢  

 

               乗鞍峠付近のアオモリトドマツ林

 

                 地獄峠付近のワタスゲ群落

 

  ネムコウホネ(緑)とヒツジグサ(紫)が咲く黄瀬萢の池塘から乗鞍岳を望む

 

          ニッコウキスゲの咲く御鼻部山分岐から見る櫛ヶ峰

                          (1988年7月下旬)

                                                                                         *概念図は地理院地図を使用

 

追憶の山紀行

月山 3

 賽ノ河原に上がり、山頂に続く木道を進む。月見ヶ原の沢が陽光に輝いている。天気は回復して、山頂に立つ月山神社がひときわ高く見えた。神社に入った登拝者一行の、お祓いと御祈祷の声や柏手が聞こえてくる。しばらくして、石段を下りてきた晴れ晴れとした彼らの表情が印象に残った。強風と霧の中を山頂に登り着いた喜びを胸に湯殿山に下って行った。

 西風に吹かれて千切れた霧が上がってくる。山頂台地の西側に立つと薄っすらとブロッケンが現れた。

                     賽ノ河原を行く

 

                    強風の中を

 

             月見ヶ原 その向こうの葉山が見えてきた

 

                      月山神社

 

                      ブロッケン

                            (2015年8月上旬)