追憶の山紀行

湿原を巡る山旅

 1980年代のある時期、東北地方の山中に広がる湿原を訪ね歩いた。ほぼ豪雪地帯にある山々の湿原は大半が雪田湿原である。いわゆる高層湿原と違って、湿原を形作る泥炭層が薄く、豊富な雪解け水で涵養される。ただ、泥炭層の厚さによる高層湿原との区別は難しいらしい。東北の山々に広がる湿原は、溶岩台地の上に形成されたものが多く、典型として月山弥陀ヶ原や鳥海山の千畳ヶ原がある。

 湿原に点在する池塘の造形に魅せられて、訪ね歩いた湿原の中で印象深かったのは、南八甲田連峰、北秋田の田代岳、奥羽山脈栗駒山と虎毛山である。

 

南八甲田連峰

 良く知られた八甲田連峰(北八甲田)から国道394号を境にして南側に連なるのが南八甲田連峰である。櫛ヶ峰、駒ヶ岳、猿倉岳、乗鞍岳などが聳えている。峰々の間に広大な湿原が広がり、大小の池塘を散りばめたお花畑が展開する。湿原を取り巻くアオモリトドマツの原生林も魅力だ。

 猿倉温泉を登山口として、旧道コースと呼ばれる車道跡に作られた道を歩き、矢櫃橋から乗鞍分岐を経て駒ヶ峰分岐でテント泊。翌日、御鼻部山分岐を経由して強風の中を櫛ヶ峰に登る。そそくさとテント場に戻り、駒ヶ岳から猿倉岳を経由して猿倉温泉に下山した。雨が降り始めた猿倉岳から、根曲がり竹が密生した不明瞭な道を下った苦労は忘れられない。それでも他の大部分の道ははっきりしていた。現在の登山道は、藪に覆われて自然に帰っている個所が多くあると聞く。

                      矢櫃萢  

 

               乗鞍峠付近のアオモリトドマツ林

 

                 地獄峠付近のワタスゲ群落

 

  ネムコウホネ(緑)とヒツジグサ(紫)が咲く黄瀬萢の池塘から乗鞍岳を望む

 

          ニッコウキスゲの咲く御鼻部山分岐から見る櫛ヶ峰

                          (1988年7月下旬)

                                                                                         *概念図は地理院地図を使用