鳥海山ー風雪の記憶ー

風雪の記憶

 鳥海山の過去の山行で撮った写真を見ていると、強烈な風雪を思い出させてくれるカットが出てくる。そんな時、ちょっと大げさかもしれないが、何事もなく山から帰って来れた幸運に今更ながら胸をなで下ろしたりすることがある。ただ、写真が残っている山行にはそれほど危機感は残っていない。言い換えればカメラを構える余裕があったということだ。

 20代に経験した冬の鳥海山は、ほぼ滝ノ小屋をベースにする湯の台口からの入山だった。吹雪が荒れ狂う河原宿で現在地を完璧に失ないリングワンデリング、烈風のソロバン尾根で耐風姿勢を保つことが出来ず飛ばされて滑落、吹雪の下山時に大黒台で右往左往して断崖の縁に出てビバークを覚悟したことなどを思い出す。それらの山行では重い機材を背負いながらカメラを出す余裕がなく一枚の写真も撮っていない。当時の天気予報の精度は低くGPSの普及はまだまだ先のこと。登山者はラジオによる天気図作成や重いルートフラッグの携行など、限られた情報で行動していた。一冬に1~2日の晴、と言われた鳥海山の冬の晴天率も、最近はかなり上がっているように思う。

              月山森を背景にして

 

 鳥海山の厳しい季節風を撮影しようと試みた数少ない写真は、私にとって大切な記録だ。その一部を数回に分けてアップしようと思う。

1、鍋森

 30歳ころに立ち上げた小さな山の会。正月合宿は3泊4日の万助道だ。入下山は穏やかな天気だったが、行動日に予定した中二日は猛吹雪に見舞われた。目標を鍋森に切り替えて、吹雪の中を深いラッセルで仙人平を越え、氷化した急斜面を登り鍋森に立った。視界の無い行動はほぼコンパス頼り。確信を持てないまま、仲間の「鍋森!」という声で目標達成ということにした。

            晴天の入山日 ギャップ付近

 

                仙人平を行く

 

                鍋森を登る

 

                吹雪の鍋森ピーク