テントを背負って登った雪の鳥海山

 鳥海山ではテントの設営が条例で禁止されています。テントを張る行為が地表に与える影響がとても大きいからです。以前、テント場として大勢の登山者が利用した河原宿や鳥海湖の現状を見れば、地表に与えるインパクトは明らかです。自然に与える悪影響を極力避けなければならないことを理解した上で、私は雪上のテント泊は問題ないと考えていますが、いかかがでしょうか。数m積もったの雪の上のテント泊は、地上数mの空間で行われる行為です。地表に与えるインパクトはゼロに近いはずです。排泄物処理が大きな問題ですが、携帯トイレの使用や、1~2泊位であれば耐えることだって可能な範囲です。

 寒さに耐えてそんなことをする意味があるのか、と疑問に思われるのはもっともです。雪山は予定した時間で行動することが難しく、途中で日没を迎えてしまうこともあります。私は写真撮影を目的に登ることが多く、朝夕の風景を見たいために時々テントを利用しています。そんなことより何よりも、テント泊は自然の息遣いを身近に感じることが出来るという大きな魅力があるからです。雪面からジワリジワリと浸みてくる寒気、テントを揺さぶる風の息遣い、吹き荒ぶ吹雪の音、薄い布切れ一枚を通して自然の鼓動が伝わってきます。

 テントを背負って登った過去の山行を、振り返ってみようと思います。 

 

1、残雪の笙ヶ岳

*広範囲の地形については、前回のブログに掲載した地形図を参考。

 臂曲がりの万助登山口に車を置いて歩き始めた。まもなく雪に覆われた登山道を、ルートを探しながら登り渡戸に着いた。雪に埋まった檜ノ沢を渡り、対岸の尾根に上がる。ブナに覆われた尾根をしばらく登ると、812mの標高点付近に小さな雪原が広がっていた。地形図を見て目星を付けていた尾根上の平地で、ツェルトを張るにはもってこいの場所だ。さっそく、細いブナと、雪に突き刺したスコップの間にロープを張り、ツエルトを吊り下げた。申し訳程度に風よけのための雪のブロックを積み、今日の我が家が完成。明日は早朝に笙ヶ岳に向かう。日没までの時間を使って東竜巻付近まで下見に登った。次第に風が強まり、雲が降りてきて付近は濃い霧に覆われた。

 テントは長坂の尾根の陰になり、風のない静かな夜だった。夜半に外を見ると満天の星が広がり、酒田の街灯が輝いていた。夜明け前に、最小限の装備を持ち、アイゼンを装着して笙ヶ岳を目指して出発する。

夜明け前の外輪山を見る。山体の陰になり夜明けが遅い。

千畳ヶ原に光が当たり、外輪の上に新山の頭が見えた。

東竜巻付近の雪庇に出来た亀裂を前景に笙ヶ岳を望む。

笙ヶ岳一峰の三角点に着いた。

凍てつく鳥海山の眺望が広がった。

 

 下山途中、眼下にポツンと青いツエルトを見出して、急に孤独感に襲われた。

                               2013年4月4~5日

 

*概念図は国土地理院発行の閲覧地図を使いました。