テントを背負って登った雪の鳥海山

2、北面の展望台 丸森

 丸森のピークにテントを張り朝夕の鳥海山北面を眺める、という計画で中島台リクリエーションの森を出発した。同行は山仲間のSさん。Sさんは都合により明日の朝に下山する。雪に覆われた県道52号線を進み、ヘナソ沢を過ぎた辺りから赤ハゲの急斜面に取り付いた。踏み抜きに悩まされながら赤ハゲのピークを過ぎると、尾根上にはブナの巨木は立ち並ぶ。丸森に続く痩せ尾根を辿り、鞍部から安定した雪庇の上を登った。丸森が近くなって、霞んだ空の下に新山が見えてきた。

 丸森のピークに着き、雪面を削ってSさんが担ぎ上げてくれた4~5人用の大きなテントを設営した。周囲に雪のブロックを積み完成である。夜半、東風が強まり雨が降った。ここは「風の名所 丸森」と言われるだけあって、テントが風にはためいている。朝になって風向きが変わり雨が止んだ。次第に雲が消えて姿を現した鳥海山をじっと見ていたSさんが、「では、・・・」と下山して行った。

ブナが立ち並ぶ赤ハゲの尾根

春かすみの空に新山が見えた

二日目の朝 テントから見る鳥海山

 スキーで下山したSさんを見送り、奥深い山中に一人残された寂しさを振り切って出発準備をした。昨日の登りで何度も雪を踏み抜いたりして腰を痛めたようなので無理はできない。それに明日は大きなテントを背負っての下山が控えている。

 七高山から下りてくる北尾根の末端近くで、火口のような不思議な地形を見て下山を決めた。山体崩壊から取り残されたような窪地が標高1400m付近にあった。

下山途中、眼下に見えてきた丸森のピークに赤いテントを確認して安堵した。あとはテントに戻り、残された時間を心ゆくまで山を眺めよう。

 夕日が稲倉岳の肩に沈んで行く。日没と共に西風が吹き始めた。風は次第に強まりテントを激しく揺らした。気温が異常に上がり張り綱が緩み、雪が解けてできた床の隙間を風が吹き抜けて行く。外に出ると、立って居られないほどの風が吹いていた。テントに入り、じっと朝を待つしかない。テントを持ち上げるような突風は明け方まで続いた。

 いつの間にか明るくなっていた。風は少し収まって、見上げる山頂に光が当たっている。なだらかな扇子森も見えた。

 朝食を済ませてテントの撤収にかかる。飛ばされないように身体全体を使ってテントを丸めて何とかザックに収めた。雪面を整地して下山を開始する。登ってきた時より重くなった荷物を背負い、振り返ると新山が笑っていた。

                              2014年3月26~28日

*概念図は国土地理院5万分の1地形図を使用しました。