鳥海山ー山歩き雑感ー

22、鍋森から噴出した溶岩流

 鳥海山山頂の南西の中腹に、笙ヶ岳と月山森の大きな尾根に挟まれた細長い地形があります。ここは、鍋森から流れ出た溶岩が冷えて固まり形成され、その後ブナに覆われた静かな場所です。並走するように伸びる三本の登山道があり、大きな尾根をひたすら登る長坂道、檜ノ沢左岸の小さな尾根を登る尾根道の万助道、もう一つは西のコマイ(かつての南のコマイ)に沿って登る二ノ滝口。どれも御浜を目指す登山道です。

 

 地形図を見ると、笙ヶ岳と月山森の大きな尾根に挟まれた細長い地形に顕著な溶岩堤防があることに気が付きます。万助道が途中から辿る溶岩堤防は万助尾根と呼ばれています。

笙ヶ岳から見た万助小舎

万助尾根を登る

 国土地理院技術資料を参考にして、地形図に溶岩の流れを書き込んでみました。鍋森から噴出した熔岩は、笙ヶ岳と月山森の大きな尾根に挟まれた狭い地形を流れ下り、カルデラ壁が狭まった所を過ぎると一気に広がって止まった様子が分かります。

 中の沢溶岩流と万助道溶岩流には、時間的隔たりがあるのですがどちらも鍋森付近から噴出したと言われています。中の沢溶岩流に万助道溶岩流が重なっていますが、この二つの溶岩流の境にはゴルジュが発達しています。溶岩流が接する部分を流水が浸食するのでしょうか。西ノコマイの三ノ滝付近や、檜ノ沢の渡戸下流部分に溶岩を穿つゴルジュがあります。

檜ノ沢のゴルジュ

二ノ滝渓谷三ノ滝付近

 




長坂道登山口付近を流れる山ノ神沢
約300m上流に湧水点がある

湧水が流れる二ツ沢

 鍋森から噴出した溶岩流の末端には「洞腹の滝」をはじめとして湧水点が多数あります。

 溶岩流末端から湧き出す湧水は中島台の獅子ヶ鼻湿原が知られています。溶岩流によって形成された鳥海山には、いまだ知られていない所も含めて数多くの湧水点があると言われています。

 鍋森から流れ出た溶岩流は、鳥海山のほんの一部を形成しているだけですが、山ノ神の水場、洞腹ノ滝、二ノ滝渓谷、檜ノ沢、二ツ沢など、多くの興味深い場所があります。鳥海山の山頂を目指すだけではなく、長坂道、万助道、二ノ滝口を繋ぐ連絡道を利用して中腹を歩き、過去の火山活動に想いを巡らすのも良いと思います。

*中腹はツキノワグマの生息域です。そのことを忘れないようにしたいと思います。

*概念図は国土地理院発行の地形図を使用しました。