テントを背負って登った雪の鳥海山

5、中島台

 夜明け前の県道58号の車止めから歩き始めた。除雪された路面がツルツルに凍っている。第一発電所を過ぎて2㎞ほど進むと除雪が終わり、先行する踏み跡が現れた。スノーシュウを履き、踏み跡を追って中島台リクリエーションの森を目指した。リクリエーションの森で先行者の踏み跡を見失い、リッジ状に雪が乗った赤川の橋を渡ることが出来ず、やむなく除雪終点に戻った。

 気を取り直して、鳥越川沿いの林道から獅子ヶ鼻を目指す。溶岩末端崖の沢状を急登。ブナ林の台地に出てテントを設営した。途中で見えた山頂に気持ちだけが先走り、半日を無駄にしてしまった。落ち込んだ心をリセットして、夕方の山頂を見るために出発した。

 行く手に稲倉岳東壁が見えてくると、広い尾根は急に痩せ尾根に変る。山頂を望む台地にたどり着いた時、辺りはすでに稲倉岳の影の中に入っていた。気温がどんどん下がって行く。持っている衣類をすべて身に着けて、夕方の光を待った。次第に風が強まり、寒さに耐えきれずにテントに戻ることにした。

 朝の時点で先行者の踏み跡に頼ったことを反省した。シュラフに入ったころから吹き始めた風は夜半には暴風に変り、ブナの梢を鳴らして吹き抜ける。まるで轟音を上げる機関車が耳元を次々に通り抜けていくように。結局、一睡もできずに朝を迎えた。天気は下り坂。今にも降り出しそうな空の下、複雑な思いを抱いたまま下山した。

                            

国土地理院発行の五万分ノ一地形図を使用した。

テント場の近くで見た山頂

 

最終到達地点で見上げる。

 

雪煙を上げる稲倉岳

                             2019年2月24~25日

 

 1週間後、ふたたび中島台に向かう。今回は除雪終点まで車で入ることが出来た。鳥越川沿いに進み、前回と同じ溶岩末端崖を登りブナ林の台地を進む。先日のテント場を過ぎて、朝日の当たる稲倉岳東壁を見上げた。痩せ尾根を辿り、上がった台地の一段上の、ブナの根元をテント場にした。必要な荷物をザックに入れ、アイゼンを履いて上部に向かう。

朝の光を浴びる稲倉岳東壁

 

凍てつく双耳峰を望む

 

ブナの根元に張ったテント 

 

 天気に恵まれてのんびり雪原を歩き回り、夕方の山頂を撮影する適地を探す。寒さに耐えることが出来なかった前回の反省から、あまり標高を上げないで夕方の時を待った。赤く染まった山頂が光を失うと、急激に気温が下がってくる。逃げるようにテントに戻った。

稲倉岳と、その向こうの蟻ノ戸渡

 

中島台の雪原と稲倉岳

 

岩氷を纏う双耳峰

 

山頂の夕映え                               

                              2019年3月3~4日