鳥海山-風雪の記憶ー

2、滝ノ小屋

 1984年2月下旬、異常低温注意報(当時は「異常」を付けて発令されていた)を無視して、湯の台を出発した。同行は山仲間のSさん。激しく降っていた雪は次第に小降りになり、スキーを履いて南校ヒュッテを経由、尾根を進む。雪が吹き飛び所々地面が露出する鳳来山はスキーを担ぎ、雪庇を張り出す尾根はスキーで歩いて横堂に着いた。

            大きな雪庇が張り出す月光坂

 

 時々地吹雪が吹き抜けて視界が利かない。風圧で締まった雪の急斜面を登る。月光坂はこのルート上の大きな関門だ。スキーをデポして、ワカンでステップを刻み時間をかけて平坦なブナ林の広がる大黒台にたどり着いた。休む間もなく空身で下りスキーを取りに行く。

        月光坂を登る 見下ろす湯の台付近は吹雪いている

 

 平坦な大黒台はスキーに履き替えて、限界杉を経てブナ林を進む。夕刻が迫り、今日中の滝ノ小屋到着が難しくなる。そんなことになるだろうと予想して背負ってきたテントを東物見付近のブナ林に設営した。明日は空身で滝ノ小屋まで往復することに計画変更する。

           最小限の荷物を背負い滝ノ小屋に向かう 

 

 翌朝、雪が止み風が収まってきた。予定通り滝ノ小屋に向かう。途中から再び吹雪が始まった。ホワイトアウトの中、コンパスを頼りにウスメ岩を越えた。吹雪を避けてしばらく目を凝らしていると滝ノ小屋が見えてきた。

                 小屋を目指す。

 

              地吹雪が走り抜けていく

 

           吹き込んだ雪をかき分けて小屋に入った

 

 時折青空が見える。天気は回復に向かっている。異常低温注意報はどこに行ったのだろう。午後になってから、東物見のテントを回収してふたたび滝ノ小屋に戻った。夕方からふたたび吹雪が始まった。

            吹雪が止み青空が見えてきた。

 

 小屋はテントに比べると天国のように感じる。昨夜の寝不足を取り戻すかのように熟睡した。明けて3日目の朝、風の音が聞こえない小屋の入り口をこじ開けて驚く。1mを越える新雪が積もっていた。異常低温注意報を笑った酬いかも知れない。

 風はそれほどではない。脱出は今しかない。ふわふわの雪を踏み固めてスキーを履いた。私もSさんもスキーによる滑降は初心者レベル。宮様コースの滑降は難航を極め、転ぶたびに底なし沼のようにズブズブ埋まる雪の中でもがきながら体制を整える。そんなことを何度繰り返しただろう。夕刻が迫る平坦な鳥海牧場を足を引きずりながら歩く。疲労で動けなくなる寸前で登山口に戻った。