鳥海山ー山歩き雑感ー
17、虫穴
外輪山の稜線に、登山口から見てそれと分る巨大な溶岩の塊「虫穴」が載っています。溶岩が冷えた時に、火山ガスが抜けた穴が無数に空く軽石のような岩と言われているのですが、長い時間の雨水による風化の影響も受けています。
「虫穴」の大きさを測ったことはありませんが、小型のダンプカーくらいは優にあります。こんなに大きな溶岩の塊がどこから来たのか不思議でなりません。巨大な火山弾と言う説を聞いたことがあります。地球の造山活動のエネルギーを考えるとあり得ることですが、東鳥海火山体の山体崩壊の時に、古い鳥海山の噴火でできた溶岩の塊が単に外輪上に取り残されたものである可能性もあります。
以前、鳥海山にウエツキブナハムシが大発生して中腹のブナに大きな被害をもたらしました。その夏、外輪山から赤茶けたブナ林の広がりを見下ろして驚いたことを思い出します。「虫穴」の近くを歩いていた時のことです。何かが顔に当たったので、それが落ちた地面を見ると黄色い小さな虫が動いていました。ブナ林を食い荒らしたウエツキブナハムシの成虫です。「虫穴」を見上げると岩の表面で無数のウエツキブナハムシが蠢いていました。頭に浮かんだのは「虫穴」の謂れです。
五穀豊穣を祈願して山頂に登った参拝者が、紙を丸めて「虫穴」の表面の穴を塞ぎました。参拝者は、穴を塞げば田畑を荒らす害虫は出てこない、と信じていたのです。害虫は、ハフムシ、蝗虫、浮虚子などで、ハフムシと蝗虫はバッタの類で主にイナゴのことであり、浮虚子はゾウムシを言っているようです。
ウエツキハムシは、中腹のブナを食い荒らした後に成虫になって「虫穴」の周りを飛び回っていました。彼らにとって、ここが居心地の良い場所だったのでしょうか。