16、如意輪観音
湯の台口の登山道では、薊坂を登り切り外輪の尾根に出るまで新山を見ることはできません。伏拝岳に立った時、目の前に突如現れる新山溶岩ドームの印象は強烈です。登り切った感激が大きく、昔ここに大物忌神社の遥拝所があったというのもうなずけます。千蛇谷を隔てて聳える新山は、1801年に噴出した比較的新しい溶岩ドームで、植生の有無で古い荒神ヶ岳と区別できます。新山溶岩流の盛り上がりに大物忌神社が建っているのが分かります。
伏拝岳から東に少し進んだところの道の左側に、如意輪観音が置かれています。それほど磨滅は進んでいないのですが、いつの時代のものか分かっていないようです。山行の無事をお願いする登山者も多く、ここから大物忌神社と一緒に拝むことが出来ます。
如意輪観音が置かれたこの場所は、冬期登山において、地形的に特別な意味を持っています。冬に南面から外輪山を目指す時は湯ノ台登山道を登るのではなく、直線的に伏拝岳を目指すソロバン尾根を登ります。目指すのは如意輪観音がある伏拝岳の東側。いつも雪の吹き溜まりができていて、少々の風であれば凌ぐことが出来る唯一の場所です。もちろん、冬型の気圧配置で吹く強い季節風を避けることが出来る場所は外輪のどこにもありません。行動中に突然風が強くなった時、ここに避難してひと息ついたことが何度もありました。信心が希薄な私ですが、そんな時は心の中に如意輪観音の姿が浮かんできたものです。
ここは河原宿への下山ポイントです。