鳥海山ーモノクロームの情景ー

仙ヶ洞③

 仙ヶ洞を右に見て、外輪に向かってトラバースする。足元から千畳ヶ原に向かって一枚の斜面が切れ落ちていた。スキーヤーにとって垂涎の的になりそうな美しいスロープだ。風紋が刻まれた斜面上部に岩場が見える。ここは文珠岳と伏拝岳の間の、登山道に2段のハシゴが設置された岩場だ。その下をトラバースして外輪の縁に向かう。複雑に風紋が刻まれた尾根から山頂を見上げた。積雪が極端に少ない新山は、いつもの冬より険しく感じた。

            風紋の斜面上部に岩氷に覆われた岩場が見えた

 

                風紋の向うに稲倉岳が見えた

 

           文珠岳に向かう雪の尾根に動物の足跡があった

 

                   新山を見上げる

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仙ヶ洞②

 ボサ森の尾根に上がり、灌木帯と吹き溜まりの境を登った。次第に仙ヶ洞が大きく見えてくる。雪原を覆う風紋は、気温上昇でエッジが溶けて繊細さが損なわれていた。仙ヶ洞を構成する巨岩を岩氷(エビノシッポ)が覆っている。岩氷は新鮮さを保ったままで迫力がある。

             ボサ森の登りで振り返って見る河原宿

 

            溶けかかった風紋とその向こうの外輪山

 

               雪原の先に仙ヶ洞が見えてきた

 

                  岩氷を纏う仙ヶ洞

 

                仙ヶ洞下の台地に着いた

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仙ヶ洞(2021年2月中旬)

 2019年冬の祓川から膝の不調が続いた。重荷を背負って長い距離を歩いたことが負担になったようだ。2020年は、無雪期の山歩きは続けていたが冬の山行を控えた。明けて、2021年、リハビリを続けたことが良かったのだろうか。違和感が消えたので、滝ノ小屋をベースに、無理のない範囲で登ってみることにした。

 1月下旬の山行は、天気に恵まれなかったこともあり写真的な収穫はなし。それでも河原宿から仙ヶ洞まで登ることが出来たことが大きな収穫になった。

 2月中旬、再び2泊3日の予定で滝ノ小屋に上がった。小屋周辺の雪原は2月にしては異常な融雪跡と降雨跡があった。温暖化による暖気の影響と思われる。河原宿の雪原を覆う風紋はエッジが解けて精彩を欠いていた。前回のように仙ヶ洞から外輪山に立ち新山を見ることを目標にして登った。

          滝ノ小屋の西側に広がる雪原 融雪の跡が見られる

 

                 河原宿の雪原に昇る朝日

 

                    ボサ森の雪庇

 

                   崩壊する雪庇

 

                雪庇の向うに外輪山を望む

 

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祓川②(2019年3月中旬)

 夜になって再び風が強まり、朝になっても止まず小屋を揺する。高曇りの空の下に山頂が見えていた。昨日膝が痛まなかったことに気を良くして、無理なく行ける所までと決めて出発する。スノーシューを履いても膝まで埋まる所や氷化した急斜面を越えて、賽の河原の辺りまで登った時、突風にあおられて身体をひねり膝に痛みが走った。明日の長い下山を思うと無理が出来ず下ることにした。

                                            下山時のトレースと雲が流れる山頂

 

                                                     夕陽を受ける山頂を見上げる

 

 晴天の翌朝、二日間吹き荒れた風が止んでいた。竜ヶ原を横断して雪原を歩き、飯ヶ森を往復する。簡単な朝食を取り、荷物をまとめて小屋を出た。何度も振り返りながら下山の途についた。

                    竜ヶ原の朝

 

                飯ヶ森から見上げる朝の山頂

 

                                                                   朝日に輝く稲倉岳

 

                                         中島台のうねる雪原と扇子森のカルデラ

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・祓川(2019年3月中旬)

 中島台で、膝に軽い痛みがあったのだが、重いテント泊の荷物を背負って長い距離を歩くことが出来た。2週間が過ぎて、痛みと違和感が消えたものの、膝痛はいつ再発するか分からない。中島台の時と同じように、高い所に上れなくても山を見たいし撮影もしたい。鳥海山の北面を、前回と違う角度から撮影するために祓川に向かうことにした。

 スノーシューを履いて矢島スキー場から車道沿いに祓川を目指す。膝に故障を抱えているために、普通の2倍のコースタイムで、祓川に着いたのは出発してから約7時間後。祓川は遠い。晴天だが、風の強い様子は遠くから見ても良く分かる。祓川は西風が吹き荒れていた。雪煙を巻き上げる上部の様子を、標柱にしがみ付きながら撮影した。

 冬季の入り口から祓川ヒュッテに入り、荷物を整理して夕方までの時間を撮影に費やした。夕方近く、ようやく風が収まってきた。

                  雪原に影を落とすブナ

 

                                                        祓川から見上げる烈風の山頂

 

                    雪原の表情

 

                輝く雪原と彼方の稲倉岳

 

                                                              風紋の雪原で見上げる山頂

 



                 中島台の雪原と扇子森

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・鳥越川(2019年3月上旬)

                  谷間に続く踏跡

 

               波打つ雪原から見上げる山頂

 

                北から見る八丁坂付近の山容

 

                   東壁を連ねる稲倉岳

 

                   夕映えの双耳峰

 

                  夕陽に輝く山頂

 ヘッドランプで自分の踏み跡を確かめながらテントに戻る。暗くなると南西の風が吹き始めた。バタバタとテントを揺する風に、今回も眠れない夜を覚悟したが、夜半に風が止んだ。

 翌朝、どんよりとした曇り空で明けた。今にも降り始めそうな空を見ながら下山を急ぐ。振り返ると、陰影のないグルーミィな風景が広がっていた。

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・鳥越川(2019年3月上旬)

 一週間後、再び県道象潟矢島線の除雪終点から歩き始めた。前回と同じコースを辿り、三郎沼の一段上のブナの疎林にテントを設営した。ここが森林限界なので、前回のような強風が吹かないことを祈り、氷化した堅い雪を掘り起こして気持ち程度の風よけブロックを積んだ。

 朝から晴天が続いていて、頂稜の夕焼けが期待できそうだ。撮影場所を探して登って行くと、登頂を終えて下山する登山者数人とすれ違う。テントから遠くない位置で、新山と七高山をきれいに望むことが出来る場所に三脚を立てて夕焼けの時間を待った。次第に南西の風が強くなったが、前回ほどではなく夕日に染まる双耳峰を撮影することが出来た。

                 晴天の下の稲倉岳東壁

 

              鳥越川右岸の台地から仰ぐ山頂

 

                  森林限界のテント場

 

                    見上げる稲倉岳

 

                 扇子森の雪庇と波打つ雪原

 

                  蟻ノ戸渡付近の雪の壁

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中島台

 変形膝関節症の症状があり、2年間冬山を控えていた。その間、膝周りを鍛える筋トレに励んだ。平地のウオーキングと軽い山歩きを続けているうちに奇跡的に痛みが消えた。膝痛が再発する危険はあるとしても、冬山を登れるのは今しかないと考えて中島台からの鳥海山北面の撮影を計画した。

 

・鳥越川(2019年2月下旬)

 未明に県道象潟矢島線の除雪終点から歩き始めた。中島台レクリエーションの森のブナ林に入り赤川の橋に行くと、橋の上にナイフリッジ状に雪が載っていて先に進めない。県道を第二発電所の入り口まで戻ることになった。気を取り直してスノーシューを履き、鳥越川に沿う林道を歩いた。獅子ヶ鼻湿原の西側を抜けて、一段上のブナ林の台地に着いた時はすでに昼を回っていた。立ち並ぶブナの間にテントを設営する。必要最小限の荷物を持って鳥越川右岸の三郎沼を目指した。急な斜面を登ると痩せ尾根に出る。右は鳥越川、左は鳥越川の水を赤川に引く半人工の水路だ。尾根の先に稲倉岳の東壁が見えてくる。痩せ尾根が左に曲がると、ブナの梢越しに新山と七高山が双耳峰の姿で見えた。

 付近はすでに稲倉岳の大きな影の中に入っていた。鳥越川右岸の台地で、北面を撮影するために夕方の時間を待つ。しばらくすると、南風が強まり身体を揺さぶるようになった。持っている衣類をすべて着込んでも、強風が運んでくる寒気に耐えられず、逃げるようにテントに戻った。

 

                ブナの間からから山頂が見えた

 

             痩せ尾根を登り切ると見えてきた山頂

 

                 そそり立つ稲倉岳東壁

 

                聳える双耳峰 新山と七高山

 

              激しく雪煙を上げる稲倉岳の尾根

 

 夜半から強風がブナを唸らせて激しく吹き荒れた。ジェット機が繰り返し通り抜けて行くような轟音は朝まで続いた。一睡もできないまま夜明けを待ってテントを撤収。下山した。

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七高山(2017年3月上旬)

 先月、快晴の朝を迎えていながら、なぜ七高山に行かなかったのだろう。身体的負担は大きかったが、七高山は近くにあったはずだ。その場で見た周囲の光景に満足してしまったのかもしれない。時が経つにつれて、他の季節と同じように「新山と影鳥海」の撮影をしたいという気持ちが沸き起り、冬が終わる前にもう一度七高山に行こうと思った。今月10日頃は満月に当たる。この冬の最後のチャンスだ。

 2日目の日付が変わる頃に登り始めて、夜明け前に七高山に立てば良い。入山3日目は晴れの予報だ。先ずは滝ノ小屋に向かう。深いラッセルに嫌気が差したころ、追い着いてきたのはN川山岳会の11人パーティ。喜んでトレースを使わせてもらった。

 翌日は前回と同じように、ソロバン尾根までルートフラッグを立てる。N川パーティは外輪山を目指して登って行った。滝ノ小屋に戻り、明日の夜間登山に備えて休んでいるとN川パーティが戻ってきた。外輪に立った頃、青空が広がり雪の頂稜の展望に感激したことを話してくれた。賑やかな一行が下山して静かになった小屋で、いつもよりいっそうの孤独感を味わう。

 予定通り月明かりの中、N川山岳会の残したトレースを辿ってソロバン尾根を登る。強風で埋もれたトレースを繋ぎ外輪山に立った。行者岳から望む月光に輝く頂稜は、思わず身震いしてしまうほどの美しさだ。新山とそれを取り囲む外輪山の、青白く岩氷を纏う姿を見て、三脚を持って来なかったことを悔やんだ。

 月が日本海に消えて東の空が明るくなってきた。その頃から星の輝きが鈍くなってきたことに気が付く。いつの間にか薄雲が全天を覆っていた。

 七高山北峰で日の出を迎えた。薄雲に遮られて陽光は届かず、影鳥海が出現しないまま朝の時間が終わった。落胆した気持ちを抱えていては危険だ。気持ちを入れ替えて長い下山の途についた。

 

                                    登るN川パーティ 眼下に見えるのは滝ノ小屋 

 

                                                    ソロバン尾根を登るN川パーティ

 

                  七高山で迎えた朝日

 

                                         白々と明ける外輪山 月山と海岸線が見える

 

                   鈍く光る虫穴

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・影鳥海(3月1日)

 朝焼けが始まっていた。栗駒山と月山だけが雲海の上に頭を出している。朝日が昇る前に動き出さなければならないことが分かっていても身体が怠い。雪面から伝わってくる寒気でよく眠れなかった。寒さで固くなった身体の動きは鈍く、夜明けは近くで見るしかない。日の出に合わせて外輪の縁に立つと、雲海の上に現れた鳥海山の影が次第に明瞭になってくる。初めて見る真冬の影鳥海だ。

 荷物をまとめて下山を始めた。行こうと思っていた新山に背を向けて歩き出す。雲海が月山に繋がる架け橋のように視界を埋めていた。

                 雲海の上に現れた影鳥海

 

              千蛇谷と西鳥海が影の中に眠っている

 

                   雲海の果ての月山

 

                   朝陽を浴びる新山

 

                 下山を前にして新山を見る

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・七高山に立つ(2月28日)

 目の前を覆い尽す、エビノシッポという軽い響きでは表現できない重量感に溢れる氷の集合体。稜線上の小さな火山礫から大岩まで、すべての突起物が分厚い岩氷を纏っていた。七高山に立ち外輪内壁を振り返る。彼方に月山と朝日連峰が、さらにその先に見えるのは飯豊連峰だ。北峰から見返すと、七高山のピークがが西日に輝いていた。

                外輪稜線に立ち塞がる虫穴

 

         複雑に成長した岩氷が烈しく吹き付ける季節風を表現

 

                   岩氷と七高山

 

               厳しい季節風を物語る外輪内壁

 

           北峰から見た七高山 彼方に月山と朝日連峰

 

                  夕陽に輝く外輪山

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・滝ノ小屋からソロバン尾根を登り、伏拝岳から虫穴へ(2月28日)

 ソロバン尾根を登り伏拝岳に着いた時、Hさんが新山から戻ってきた。35年振りの新山登頂を祝福し、下って行く姿を見送る。行者岳の先の鞍部でビバークの準備を済ませて、最小限の荷物を背負い七高山に向かった。

         千蛇谷にトレースがあり、単独の登山者が登って来る

 

                 新山から戻ってきたHさん

 

  

                  外輪の尾根を覆う岩氷

 

                 虫穴と七高山が見えてきた

 

                岩氷の先に虫穴が立ち塞がる

 

            虫穴の前から振り返る 遠く月山が見えた

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影鳥海の撮影(2017年2月27日~3月1日)

 中学生の時、影鳥海を見たのが鳥海登山の始まりだ。七高山で御来光を拝み、振り返って影鳥海に感動し、千蛇谷に流れてきた霧に現れたブロッケンに衝撃を覚えた。この時から半世紀をかけて鳥海山に登り続けてきた。

 これまで撮影した鳥海山の写真を振り返り、影鳥海の写真が無いことに気が付いた。影鳥海は夏山限定の風物詩であるという固定観念に縛られていたことと、多くの登山者で混雑する盛夏の山頂小屋に泊ることを出来れば避けたいということが、影鳥海を撮影する機会を持たなかったことの原因である。しかし、考えてみると影鳥海は夏山限定の風景ではないのであって、鳥海山と太陽があれば年中絶えることなく影鳥海は出現しているのである。そんな当たり前のことに気付いた時から「四季の影鳥海」の撮影が鳥海登山のテーマに加わった。

 2月末から3月初めにかけて、天気予報が3日間の晴天を伝えている。真冬の影鳥海を撮影するチャンスが巡って来た。入山に一日目を費やすとして、その翌々日の日の出時間に外輪山に立っていれば撮影は可能。あとは自分の体調と天気次第だ。この3日間は新月であり月明かりが期待できず、夜間登山は難しい。そこで、外輪山ビバークを計画した。場所は、若い頃に雪洞を掘って泊ったことがある行者岳の鞍部しかない。

 

・滝ノ小屋に荷物を置きソロバン尾根末端まで(2月27日)

 滝ノ小屋の手前で追いついてきた登山者は知人のHさんだ。明日、新山を目指すと言う。夕方までの時間、二人でソロバン尾根末端までルートフラッグを設置する。ソロバン尾根に登り着いた時、弱い西風に乗ってダイヤモンドダストが飛びサンピラーが出現した。

                 霧氷を纏うダケカンバ

 

          ルートフラッグを立てながらソロバン尾根に向かう

 

                ソロバン尾根末端で見た岩氷

 

                 風紋の雪原とサンピラー

 

                  雲流れる月山森

 

            ダイヤモンドダストが降り積もった雪原

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・伏拝岳から七高山

 西風に煽られながら伏拝岳に立った時、目の前が開けるように雲が流れて、新山と取り巻く外輪山が姿を現した。外輪山を歩き、見えてきた七高山に向かった。

                   亀の手を思わせる岩氷

 

                                                                      外輪内壁と西鳥海

 

                                                     細長く伸びた岩氷 奥に七高山

 

                                                            外輪山から新山を望む

 

                                     七高山から見る新山 右に鍋森と笙ヶ岳が見える

鳥海山ーモノクロームの情景ー

七高山(2016年3月上旬)

 先月、晴れ渡った外輪山を見上げて河原宿から下山した。冬の山行は天気に恵まれることが少なく、いつもいつも満足のいく山行が出来るわけではない。それだけに前回の晴天を見逃したことの悔しさは大きかった。

 しばらく居座っていた寒気が抜けて、予報は天気の回復を伝えていた。チャンス到来だ。ふたたび、滝ノ小屋に登る。ふたたびではなく三度四度・・・、冬になると、過去に数えきれないほど滝ノ小屋に登ってきた。雪の表情は一度として同じときは無く、いつも新鮮だ。ただ、最近の暖冬と寡雪の現状を見るたびに、地球の将来に不安を感じてしまう。

 

・強風のソロバン尾根を登り、伏拝岳に立つ

           ソロバン尾根の岩氷 向うに仙ヶ洞が見える

 

                   岩氷と流れる雲

 

      ソロバン尾根上部を見上げる 強風で発生した旗雲が湧き上がった

 

                  伏拝岳で見た新山

 

                  次第に雲が消えていく