鳥海山ーモノクロームの情景ー

七高山(2017年3月上旬)

 先月、快晴の朝を迎えていながら、なぜ七高山に行かなかったのだろう。身体的負担は大きかったが、七高山は近くにあったはずだ。その場で見た周囲の光景に満足してしまったのかもしれない。時が経つにつれて、他の季節と同じように「新山と影鳥海」の撮影をしたいという気持ちが沸き起り、冬が終わる前にもう一度七高山に行こうと思った。今月10日頃は満月に当たる。この冬の最後のチャンスだ。

 2日目の日付が変わる頃に登り始めて、夜明け前に七高山に立てば良い。入山3日目は晴れの予報だ。先ずは滝ノ小屋に向かう。深いラッセルに嫌気が差したころ、追い着いてきたのはN川山岳会の11人パーティ。喜んでトレースを使わせてもらった。

 翌日は前回と同じように、ソロバン尾根までルートフラッグを立てる。N川パーティは外輪山を目指して登って行った。滝ノ小屋に戻り、明日の夜間登山に備えて休んでいるとN川パーティが戻ってきた。外輪に立った頃、青空が広がり雪の頂稜の展望に感激したことを話してくれた。賑やかな一行が下山して静かになった小屋で、いつもよりいっそうの孤独感を味わう。

 予定通り月明かりの中、N川山岳会の残したトレースを辿ってソロバン尾根を登る。強風で埋もれたトレースを繋ぎ外輪山に立った。行者岳から望む月光に輝く頂稜は、思わず身震いしてしまうほどの美しさだ。新山とそれを取り囲む外輪山の、青白く岩氷を纏う姿を見て、三脚を持って来なかったことを悔やんだ。

 月が日本海に消えて東の空が明るくなってきた。その頃から星の輝きが鈍くなってきたことに気が付く。いつの間にか薄雲が全天を覆っていた。

 七高山北峰で日の出を迎えた。薄雲に遮られて陽光は届かず、影鳥海が出現しないまま朝の時間が終わった。落胆した気持ちを抱えていては危険だ。気持ちを入れ替えて長い下山の途についた。

 

                                    登るN川パーティ 眼下に見えるのは滝ノ小屋 

 

                                                    ソロバン尾根を登るN川パーティ

 

                  七高山で迎えた朝日

 

                                         白々と明ける外輪山 月山と海岸線が見える

 

                   鈍く光る虫穴