追憶の山紀行

朝日岳 2

 テントに赤い光が射してきて目が覚める。外に出ると、朝焼けが始まっていた。北に月山が見える。ブナの立木を通して見る古寺山も赤く染まった。

                   テント場の夜明け

 

                    黎明の月山

 テントをその場に残して最小限の荷物を背負い、昨日の自分のトレースをたどる。踏み跡は凍っていて、アイゼンを履いた。古寺山が朝日に輝いている。

                 朝日が当たる古寺山

 安定した天気の下、のんびり古寺山を越えた。ズタズタに亀裂が入った小朝日の雪庇の尾根が目の前に迫ってきた。慎重に鞍部を越えて、亀裂を避けながら登り小朝日のピークに立った。

                 雪庇を連ねた小朝日岳

 

             左から、大朝日岳、中岳、西朝日岳 

 朝日連峰の主稜から外れて位置する小朝日岳は、連峰の展望がすばらしい。連なる山々を見渡していると、大朝日岳の左側に飯豊連峰が見えていることに気が付いた。飯豊連峰は時間と共に霞が取れてはっきり見えて来る。霞の中から吾妻連峰も姿を現した。御影森山の向うには栂峰の山塊。北には以東岳や障子ヶ岳に連なる連峰と月山が見えていた。

                  大朝日岳と飯豊連峰

 

                    飯豊連峰

                     

             置賜葉山の上に吾妻連峰が見えてきた

 

              御影森山と遠くに霞む栂峰の山塊

 

 雪を踏む足音に振り向くと、一人の若者が登ってきた。サクラマス孵化場に車を止めて暗いうちに出発したと言う。時計を見ると9時を過ぎたばかり。日帰りの軽装で登る、ということはこういうことなんだな~と妙に感心してしまった。彼は熊越に向かって下って行ったかと思う間もなく、大朝日岳に続く尾根に姿が見えた。

 若者の力強い歩みに気圧されて大朝日岳に向かう気持ちが消えた。山を眺めながら、山での時間を過ごすことが出来ればそれでいいと常日頃思っている。それは単に、自分の体力の無さに対する言い訳かもしれない、などと思いながら大朝日を振り返った。テントに戻り荷物をまとめて、緩んだ雪に足を滑らせながら登ってきた踏み跡をたどり下山した。

         古寺山とハナヌキ峰の鞍部の芽吹きを前にしたブナ林

                            (2015年4月下旬)