追憶の山紀行
小朝日岳 1
混み合うゴールデンウィークの前に残雪の朝日連峰を見たい、と思い車を走らせる。道路状況を問い合わせてみると、古寺集落まで除雪が進んでいるらしい。その先の、古寺鉱泉までの林道については不明のまま。未明の大井沢を通り抜け、地蔵峠から古寺集落まで雪の壁に挟まれた狭い道を進んだ。県営サクラマス孵化場T字路から古寺林道が除雪されていたので進入してみると途中で除雪車が道をを塞いでいた。除雪はここまで。サクラマス孵化場に戻り、車を置いて歩く。この時期の朝日連峰は、いつもアプローチに苦労する。
古寺鉱泉駐車場に着き、荷物を下ろして朝陽館までの道を見ると、小沢が落ちてくるところの桟道の上に今にも崩れそうな残雪が載っていた。左から大きく高巻いて行けるかもしれないと、駐車場の壁を登りその上の台地に出る。沢が出ていて、薄いスノーブリッジは見るからに危ない。高巻きは諦めて、桟道を進むことにした。下には、古寺川の雪解け水で増水した激流が流れている。落ちるわけにはいかない。それにしても、雪の残り方が危なっかしく、冷や汗をかきながら何とか通過した。古寺川の橋を渡り朝陽館で荷物を下ろしてひと息つく。連休に備えて準備に来ていたご主人に話してみると、「昨日来た時よりずっと危なくなっているかも知れない。除雪しようと思ったけど忙しくて手が回らなかった。通る人の自己責任にまかせるしかないね~」と言っていた。
開業準備に忙しい朝陽館
朝陽館のご主人が「登山道はあっちだから」と見送ってくれた。小屋の裏手に回り残雪の急坂を登る。汗を拭きながらブナ林を急登、尾根に出ると雪が消えていて登山道が現れた。ゴヨウマツの巨木が立ち並ぶ尾根を、まとわりつくブヨを払いながら進む。ふたたび道は残雪の下。ブナ林の尾根を登り、ハナヌキ峰の手前の鞍部にテントを張った。
芽吹きが始まったブナ
ハナヌキ峰の下のテント場
雪を整地してテントを張り安堵する。ここまで時間がかかったが、まだ昼を過ぎたばかり。気が付くと天気は回復して、雲一つない青空が広がった。古寺山まで行ってみることにした。
テントから古寺山が見える
ハナヌキ峰のピークはブナの中で展望が効かない。古寺山との鞍部まで雪が消えて登山道が出ていた。古寺山の登りは残雪を踏む登り。雪面を蹴り込んでステップを刻み、一歩一歩登った。上部には雪庇を張り出した大きな尾根が立ちはだかる。アイゼンを履いて雪庇の切れ間から這い上がり、稜線に出た。帰りの目印にブナの枝に赤布を結ぶ。古寺山のピークまで、朝日連峰の展望を欲しいままに稜線歩きを楽しんだ。
輝く中岳
テントに戻り、のんびり食事を済ませる。夕日は春かすみで期待外れ。満天の星が夜空を飾り明日の好天を伝えていた。
*現在、朝陽館は営業を終えて、新たに大江町朝日連峰古寺案内センターが開設された。