鳥海山ー風雪の記憶ー

3、祓川

 1985年の2月下旬、山仲間と4人で祓川に向かう。祓川にたどり着くために、花立から標高差600m、距離約10㎞の車道を歩かなければならない。

 猛烈な地吹雪の中を車を走らせて花立の先の駐車場に車を止めた。スキーを履いて出発した直後の木境神社までは吹きっ晒し。強風に身体を煽られながら歩く。ブナ林に入ってひと息ついた。降りしきる雪の中、スキーを履いて膝まで潜る雪のラッセルに嫌気がさして、駒止の手前に設営したテントに潜り込む。2日目も吹雪は続いた。わずかに距離を伸ばしただけで善神長根の取り付きでテントを張り沈殿。祓川に着いたのは3日目の午後。ようやく吹雪が収まってきた。

               霧氷を纏うブナ林にて

 

 4日目の朝、雪が止んで風も弱まり上を目指す時が来た。祓川ヒュッテを出て、タッチラ坂を登り賽ノ河原付近から東側の尾根に上がる。時々、地吹雪が視界を閉ざすものの昨日までの比ではない。ダケカンバが揺れる尾根を登り、七ツ釜付近で山頂が見えてきた。

            ダケカンバが群生する尾根を行く

 

              七つ釜付近で山頂が見えた

 

               雪原が広がる大雪路

 

 再び風が強まり、雪が降り出したらホワイトアウトは必定。進退が危ぶまれる事態を予測し、ここを最終到達点にしてヒュッテに戻った。皮肉にも、陽が落ちる直前になって青空が広がり、山頂がきれいに見えた。

 翌日、悪天が迫る空の下、傾斜の無い車道に苦労しながらスキーで下山した。駐車場に着くと、停めて置いたはずの車が見当たらない。山にいる間に平地も吹雪は続いていたのだろう。車は屋根までスッポリ雪に埋まっていた。